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長い恋愛と静かな別れ。『そうか、もう君はいないのか』城山三郎 <自伝・自分史・その周辺15> 

城山三郎氏の小説には、社会の既成概念との軋轢をものともせず、自分の信念を貫き、偉業をもって時代に名を残した男性が多く描かれています。
その人物像の影響か、城山氏自身も、自制的で自律的、かつ豪放磊落な男性であるという思い込みをしてしまっていたようです。
それゆえ、愛妻容子さん亡きあとの、信じられない脆さに、感動すら覚えました。
人は、愛するものを失ったとき、これほどの喪失感を味わわねばならないものなのか。

二十代のはじめと十代のおわりに、出会った二人は、親の反対で一度は別れたものの、運命であったかのように再会を果たし、結婚します。
こういう二人こそ、「ベターハーフ」というのでしょう。
娘時代から、愛くるしく茶目っ気たっぷりの容子さんを、城山氏は無条件に愛し、二人は互いを必要とし合います。
結婚当初こそ、大学講師の安月給で、ラクではない生活を経験したものの、城山氏が作家として認められた後は、妻は夫の仕事を支え続け、二人はよき家庭人として生き、充実した生活を営みます。

  「夫婦」と書けば、親しげな顔をして付いてくる言葉が「喧嘩」。
  ところが、幸か不幸か、いや、もちろん「幸」だが、喧嘩らしい喧嘩をした覚えがない。

長い恋愛関係が永遠に続くような、しっくりと、よくなじみ合った二人を引き裂いたのが、妻の病気でした。
癌の発覚から、容子さんの死まで、城山氏は抑制が効いた筆致で淡々と描きます。
しかし、城山氏の文は、なぜか、中途半端に終わっています。
こういう終わり方でいいのだろうか、という疑問は、巻末に、次女の井上紀子が寄稿した手記「父が遺してくれたもの」で、解明されます。

容子さん亡き後の城山氏は、仕事場として使っていたマンションで寝起きをし、二人で住んだ家には戻ることができなかったといいます。

  「一睡もできないって、初めて知ったよ」

直後は喪失のあまりの大きさに、ほとんど鬱状態であったことが想像できます。

  「ママの事を書いてくれって言われているんだけど、困っちゃうよ」

容子さんが亡くなってすぐに出版社から来た原稿依頼に、応えられないまま7年が過ぎました。思いだすのも苦しい状態がずっと続いたのち、

  「ママが夢に出てきて『私のことを書いてくださるの』って言うんだよ」 

やっと書きだすことができたのは城山氏自身が亡くなる半年前のことでした。
そして、『そうか、もう君はいないのか』は、容子さんの最期を描いたシーンで未完のまま、絶筆となります。

アメリカに住む長男が、日本に戻り、何日か病院に通い、入院中の容子さんを見舞って、ニューヨークに戻る日、もう起き上がれないはずの容子さんは、ベッドから滑り落ち、直立して挙手の礼で送りました。
突然のおどけた動作に、親子三人は明るく笑いあったのでした。

  「生涯、私を楽しませ続けてくれた君にふさわしいフィナーレだった」、と。

人が、これほどまでに互いを求め合い、慈しみ合うことができることを教えてくれる本でした。
お二人のご冥福をお祈りします。

コメント

足跡からきました。

とても素敵なお話しのご紹介でした。子育てしているとこういった本をなかなか読む時間がないので、よいお話しを聞かせていただきました。
  • [2009/08/08 05:19]
  • URL |
  • アレルギーから子供を守り親子で幸せ子育て@龍泉
  • [ 編集 ]
  • TOP ▲

コメント、ありがとうございます。

龍泉さま

お子様と一緒にがんばる毎日は、ご多忙のこととお察しします。
お忙しいなか、ご来訪いただき、ありがとうございます。
だんだん、お時間も取れるようになると思います。
いつか、ゆとりができたら、読んでいただけるとうれしいです。
これからも、よろしく、お願いします。

> とても素敵なお話しのご紹介でした。子育てしているとこういった本をなかなか読む時間がないので、よいお話しを聞かせていただきました。

こんばんわ

こんばんわ。
ご来訪とコメント大変ありがとうございました。
レスを書いていますのでいつかご覧になってください。

城山三郎氏はわたしも敬愛する作家です。作品の毅然とした男たちに惚れます。
奥さんを先に亡くされ落ち込んでいられることは聞きましたがこれほどとは、驚きました。
記事で読みますと本当にすばらしい夫婦ですね。これほど信頼しあい愛し合い、うらやましいほどです。
奥さんすばらしいですね。
「もう起き上がれないはずの容子さんは、ベッドから滑り落ち、直立して挙手の礼で送りました」、想像しただけで涙が出ます。
とてもいい話をありがとうございました。

Re: こんばんわ

KOZOUさま

コメントありがとうございます。
城山氏の本は、読むと勇気が湧いてくるものが多いですよね。
私もファンです。

本当に素晴らしい夫婦愛でした。
こんなふうに信頼し合って人生を閉じることができたら、幸せだろうなと思います。

> 城山三郎氏はわたしも敬愛する作家です。作品の毅然とした男たちに惚れます。
> 奥さんを先に亡くされ落ち込んでいられることは聞きましたがこれほどとは、驚きました。
> 記事で読みますと本当にすばらしい夫婦ですね。これほど信頼しあい愛し合い、うらやましいほどです。
> 奥さんすばらしいですね。
> 「もう起き上がれないはずの容子さんは、ベッドから滑り落ち、直立して挙手の礼で送りました」、想像しただけで涙が出ます。
> とてもいい話をありがとうございました。

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